子ども時代を下町で過ごしたかったなぁ‥下町サイキック 吉本ばなな

この作品は、心にふと寄り添ってくれるような、不思議で温かい読後感が魅力の一冊です。

物語の舞台は、東京の下町にある自習室のようなところ。主人公は、周囲の人の気持ちや見えないものを感じ取る力を持つ女の子です。その力を使って、自習室をお掃除するバイトをしています。
彼女の生き方はとても自然で、「特別な力を持っている」というよりも、ただただ「彼女らしく」生きているだけのように感じられます。自習室を運営する「おじさん」と、日々思うことを普通に本音で話し合う。そんな姿が、私たちにも「自分らしく生きるって、案外素敵なことなんだ」と教えてくれるようです。

この本を読んでいると、吉本ばななの描くやわらかな世界観に引き込まれ、まるで誰かと肩を並べて下町の路地裏を歩いているような気分になります。悩みや不安を抱えている時も、読後には心が少し軽くなる。大袈裟に「前向きになろう!」と言われるわけでもないのに、自然と「まあ、何とかなるか」と思えてくる、そんな優しさが詰まっています。

何もかもが思い通りにいかなくても、ゆっくりでいいから自分のペースで歩いていけばいいんだと思わせてくれる本です。ほんのりとした不思議さに癒されながら、少しだけ明日が楽しみになる――そんな一冊です。